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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第10章 予期せぬ真実

 応えが返ってくるには、かなりの間があった。
「―陰謀だ」
「陰謀?」
 長閑な五月の朝にはふさわしくない不穏な響きのある言葉にドキリとする。
「英真の父上は国王(チユサン)殿下(チヨナー)からの信頼がすごぶる厚かった。国の先行きを決める重大事から、取るに足らない些細な事まで、殿下は右議政に相談していたほどだ。あまりのご信頼ぶりに、他の大臣たちが妬む始末で、右議政はそのどす黒い嫉妬と権力欲の犠牲となってしまったんだ」
 秀龍はそこで一旦言葉を途切れさせ、空を仰いだ。抜けるように蒼い五月の空には雲一つない。彼は眩しげに眼を細め、眼をまたたかせた。
「当時の領議政や左議政、更には奴らの取り巻きである腰巾着どもが結託して、右議政を陥れた。右議政は世にも怖ろしい謀反を企んだ重罪人として義(ウィ)禁(グム)府(フ)に身柄を拘束され、取り調べらしい取り調べも受けずに処刑されてしまった」
「では、右相(ウサン)大(テー)監(ガン)のご家族もその巻き添えに?」
「まあ、そう言っても差し支えはないだろうな」
 秀龍は更に怖ろしい事実を語った。
 右議政が処刑された数日後、その屋敷に賊が侵入した。そして、その夜、屋敷にいた者たち―使用人たちに至るまで賊によって惨殺されたのである。助かったのは、乳母の腕に守られて庭の物置に隠れていた幼い英真と、その乳母だけであった。
 物置は倒壊寸前で、殆ど全く使用された形跡がなかった。それが幸いして、賊は古びた物置など気にも止めなかったのだ。
「公の取り調べでは盗賊の凶行ということになったが、後になって、私は何かが違うと思った」
 大人になった秀龍が見事科挙に合格後、義禁府に志願したのも、極秘に十年前の事件を調べるためであった。
 調べてゆく中に、意外な事実が浮上してきた。右議政の家族を殺したのは、やはり、右議政その人を陥れた一派の仕業だったのだ。

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