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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第10章 予期せぬ真実

「だから、屋敷の蔵から適当に刀や壺を持ち出して、金に換えたんだ。父上や母上には、それくらいのことを英真にしてやっても良いだけの義理はあるからな」
 秀龍は肩を竦めた。
 任官してからは、流石に屋敷内の家財を勝手に売り払うようなことはしていないと、律儀に言い添えるのは、秀龍らしいといえばいえた。
 一方、英真の切迫した暮らしぶりを見るにつけ、秀龍は民の窮状を思い知らされるようになった。そのうち、自分にも彼らのために何かできることがあるのではないかと思い始め、英真のような身寄りのない孤児たちを一カ所に集め、纏めて面倒を見ることにしたのだ。
「それゆえ、我が家の蔵の何分の一かは、子どもたちの生活の糧に早替わりしたんだ。人数が多くなってくると、住む場所もそれまで英真が暮らしていた小さな家では納まり切らなくなってきたからね。恐らく父上も母上もいまだに気づいていないんじゃないか」
 あの人たちは欲深な癖に、存外に疎いとこがあるから。
 秀龍は自分の両親のことを実に皮肉げに言った。
 その時、春泉はある事実に今更ながら気づいた。秀龍が光王に似ていると思えてならなかったのは、光王が持つ特異性を秀龍も持っていたからだ。秀龍と光王はその身の内に焔の情熱と氷の冷静さを同時に持っている。
 しかし、それは、春泉が秀龍に出逢ったばかりの、まだあまり彼を理解していない頃のことだった。あれから皇秀龍という男を深く知るにつけ、二人が似ていると感じたのは、特異性もさることながら、性格の共通点ゆえだったと、今なら理解できる。外見、与える印象は全く違うのに、どこか似ているのは、自分よりも他人のことをまず考えるという行動パターンが同じだから。
 つまり内面が似ているからこそ、春泉は秀龍に出逢ったばかりの頃、あんなにも彼に光王の面影を重ねていたのだろう。
 春泉は知らないが、光王が率いる暗殺者集団〝光の王〟は元々は、浮浪児集団であり、光王自身も肉親の縁薄い境遇であった。自分を慕って集まってきた者たちの面倒を光王は厭な顔もせずに見た。みなし児たちが集まり、助け合っていく中に、彼等は〝光の王〟のメンバー、つまり光王の手下たちとなっていったのである。

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