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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第11章 男装女子

 確か、秀龍はあのときも言っていなかったか。
―無闇に誤解を招くような言い方はしないでくれ。
 春泉がそのときのことを思い出していると、香月が漸く笑いをおさめて真顔になった。
「兄貴にとって、本当に大切なのは奥さんだけだよ。肝心の奥さんがそのところを判ってやらないと、奥さんに惚れに惚れ抜いてる兄貴が可哀想だ」
「え、ええと。じゃあ―」
 春泉は必死で言葉を探す。元々、喋るのはあまり得意ではない。殊に自分の感情に適切な表現を見つけるのは大の苦手なのだ。
「秀龍さまから色々と香月さまのお話を聞いてて、面白そうな方だと思っていたので、是非、ひとめお逢いしてみたいと思っていたのです。―こういう言い方では、どうでしょう?」
 ぷっと、またしても香月が吹き出した。
 春泉はますます焦る。
「私―、また何か変な言い方をしました?」
「面白いって、珍獣か何かじゃないんだからさあ。もうちょっと言い方はないの? 流石に図太い俺でも今のは少し傷つくよ」
「ご、ごめんなさい。あまり、喋るのが得意ではないので」
 あまりの恥ずかしさに、涙が溢れてきた。秀龍に内緒で男の格好までして妓房に乗り込み、更に初対面の香月の前で大恥をかいてしまった―、妻の恥は良人の恥でもある。これで秀龍の面子を傷つけてしまったのだと思うと、あまりの情けなさに泣けてくる。
 こんな浅はかな女を妻にして、秀龍も気の毒だと、内心、香月は義兄を哀れんでいるかもしれない。
「あー、泣かないで。別に責めてるわけじゃないからさ。俺も何だか兄貴の気持ちが判るような気がするよ。何だかんだ言って、泣き顔も可愛いしねえ。いつも意地悪して、泣かせたくなっちゃうんだろうな、兄貴も」
「本当にごめんなさい。香月さまが気を悪くなさったのなら、謝ります」
 瞳を潤ませる春泉を見て、何故か香月が眼を見開いたかと思うと、プイと顔を背けた。
 まさか本当に怒ってしまった? 
 春泉が不安げに見つめていると、香月はフッと微笑んだ。

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