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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第11章 男装女子

 昔から、そうだった。心から望んだものは、けして手に入らない。両親のいる温かな家庭も、優しかった兄も―。すべては彼の手のひらの隙間から砂のように零れ落ちていった。
 春泉は既に人妻だ。しかも、何の恩義もない男のものなら、躊躇いもなく奪うだろうが、春泉は秀龍の妻なのだ。幾らあがいても、もう、どうにも身動きのできない状況だ。
 せめて、春泉ともう少し前に出逢っていたなら。彼女が秀龍とめぐり逢う前に、俺と彼女が知り合っていたなら、状況は少しは違っていただろうか。
 今更、そんな夢みたいなことを考える自分が滑稽で、哀れで。
 春泉が帰っていった後も、香月は床に一本だけ転がった銚子の傍、いつになく物想う顔で虚空を睨みつけていた。

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