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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

 美京の部屋を出た秀龍は肩を竦めると、周囲に誰もいないのを確かめ、早足で義禁府の詰め所までの道を辿った。

 秀龍が漸く自邸に帰れたのは、その日の夕刻である。
 庭先まで出迎えた春泉は既に熱もすっかり元どおりに下がっており、いつもと変わらない笑顔だった。
「私は丈夫なだけが取り柄ですもの」
 と、彼の最愛の妻は可愛らしい面に眩しい笑みを浮かべ、結婚三年めの彼は毎度のごとく、その笑顔にボウッと見惚れそうになってしまう。
「なら、良いんだがな。油断は禁物だぞ? また風邪がぶり返したら、大変だからな」
 そう言って春泉のやわらかな身体を抱きしめ、その艶やかな髪に顔を埋める。妻の身体からは焚きしめた香の匂いか、かすかな花のような香りが漂った。
 今宵は、このやらわかな膚に思う存分、溺れたい。そんな不埒(?)なことを考えているとも知らず、春泉は彼の留守中に起こった他愛ない出来事をあれこれと話している。
 適当に相槌を打ちながらも、秀龍の方はもう、妻と過ごす心ときめく一夜のことで頭はいっぱいだ。ふと、彼の脳裡で昨夜の出来事が甦った。
 美京といったか、あの娘の腹痛は治まっただろうか。
 が、春泉の笑顔を見た途端、その想いもどこかへ飛んでいった。
「今日のお帰りは早かったので、お食事がご一緒できますね」
 春泉は昨夜、秀龍が帰らなかったことについては少しも触れなかった。良人を信じているのか、それとも、不安はあっても、口にすべきではないと自らを戒めているのか。
 その健気さに、秀龍はなおのこと妻への愛しさが募る。
「春泉、食事も良いが―、いや、食事にはまだ早い。私はそれよりも前に、そなたと是非、やりたいことがあるのだ」
 秀龍はそう言うなり、春泉をいきなり抱き上げた。
 突如として視界が揺れ、春泉が小さな悲鳴を上げる。しがみついてきた春泉の様子に、秀龍は笑みを洩らし、その耳許で囁く。
「少しの間、私の相手をしてくれ」
 春泉を抱いたまま廊下へと続く階(きざはし)を上がり、扉を開けると、そっと床に降ろす。

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