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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

「そなたは、私を見棄てないでくれよ。春泉」
 秀龍が半分本気、半分冗談で言うと、春泉は大真面目に応えた。
「旦那さまが去れとおっしゃらない限り、私はずっとお側におります」
「可愛いことを言う」
 秀龍が堪りかねたように春泉の唇を唇で塞ぐ。角度を変えた口づけは次第に深くなり、秀龍は春泉のみずみずしい唇を幾度も奪い、心ゆくまで堪能した。
 逃げ惑う舌を絡め取り、自分の舌で春泉の口中を丹念に辿り、愛撫を加えてゆく。そのうちに、春泉の身体が燃えるように熱くなり、やがてその熱は秀龍に燃え移り、燃え盛る紅蓮の焔となって二人を包み込み、灼き焦がす。
 紅を差さなくても、春泉の唇はまるで塗ったように艶やかで紅い。その唇だけ見れば、淫猥でひどく官能的だ。男なら、まず春泉の唇に眼を止め、すかさず自分の唇で塞いでみたくなる。抱いてやれば、その愛らしい唇から、どんなに艶めかしい喘ぎや吐息が洩れるのかと想像するだけで、身体の芯が熱くなるだろう。
 秀龍の手が春泉のチョゴリの前紐にかかる。衣ずれのかすかな音が部屋を満たす静寂(しじま)の底に妖しく響いた。

 春泉は先刻から、物珍しげにしきりに周囲を見回していた。
 都の往来は、ボウと立っていたら、すぐに押し流されて、とんでもない方向へと人波に運ばれてしまうほどの賑わいだ。
 むろん、春泉は、こうして町中に出るのは初めてではない。しかし、ここひと月ほどは監視の眼が厳しくて、なかなか抜け出せない状態がずっと続いていた。
 春泉の体調がずっと思わしくないのを秀龍が心配して、屋敷から出るのを禁止していたからだ。もっとも、今もまだその禁止令は有効なのだが、春泉が勝手に無効にしてしまったのだ。
「幼児でもあるまいに、旦那さまはいちいち心配性なんだから」
 春泉はクスリと笑みを洩らす。だが、その秀龍の過保護ぶりがどこかで嬉しい春泉でもあった。秀龍が〝あれをしてはいけない、これをしては身体に障る〟などと口煩く言う度に、愛されているのだという幸せがひしひしと伝わってきて、幸せな気持ちになる。
 もとより、今日も秀龍の許可が出たわけではなく、見張りの眼が緩んだのを良いことに、春泉がこっそりと屋敷を抜け出してきたのである。

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