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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第13章 陽溜まりの猫

 まだ十そこそこほどのものだろう、あんな幼い子どもがいずれは妓生となり、男から男へと身体をひらく宿命を辿るのかと思うと、やり切れない。
 もっとも、妓生には及ばないかもしれないが、女というものは両班にせよ、妓生にせよ、男にとっては皆、たいした違いはないのかもしれない。
 昨夜、秀龍はまるで強姦でもするかのように、春泉を幾度も荒々しく抱いた。春泉が泣いて抵抗しても、一向に許してはくれなかった。
 昨夜のことで、春泉は秀龍がまた判らなくなった。一体、自分は彼の何なのか?
 愛している。大切にすると耳許で囁きながら、あんな酷い仕打ちをして。
 愛している女に、あんな無体ができるのだろうか。まるで獣が交わるように背後から幾度も強く刺し貫かれ、春泉は最後には意識を失った。
 あまりにも烈しすぎる情交に、春泉は身体だけでなく心も傷つき、疲れ果てていた。
 少女と入れ替わるように、美しい女が現れた。高々と結い上げた髪には真紅のリボンを結び、白のチョゴリと牡丹色のチマ。どう見ても三十は超えているだろう女には少々派手すぎる嫌いはあるが、女の華やかな美貌は、その派手さに負けてはいない。
「あんた、誰?」
 不躾に訊ねてきた女は、じろじろと品定めするように春泉を眺めた。
「まあ、悪かァないね。色香もそこそあるし、その割には清楚で可憐な雰囲気がある。客は素人っぽそうな初な娘を好むから、案外、この娘(こ)はイケるかも」
「あ、あの。香月はいますか?」
 先刻の少女に問うたのと同じことを口にすると、女はハハーンと心得顔で頷いた。
「何だ、あたしは、てっきり、落ちぶれた両班の娘がうちに職探しにきたと思ったのに。あんたは皇家の若さまの奥方だね?」
「は、はい」
 春泉はコクコクと頷く。
「あたしはこの翠月楼の女将だよ。ここは、あんたみたいな良家の奥方が来るところじゃないよ。さっさと帰って、大人しく旦那の帰りでも待ってな」
「お願いです、香月に逢わせて下さいませんか」
「若さまの奥方がどうして恋仇の香月に逢いたいのさ? たとえ真実がどうあろうと、香月はあんたの亭主の情人ってことになってるんだよ?」

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