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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

 それほど父を慕う娘が長じて、父が他の両班の男たちのように愛人を作るほど好色だと知り、父を疎んじるようになるとすれば、それは哀しいことだ。
 その時、庭の方から乳母の声が聞こえてきた。
「お嬢さま(アガツシ)、お嬢さま」
 春泉が少し怖い顔で恵里を見た。
「恵里、そう言えば、お勉強の後は刺繍をするようにと言ってはいませんでしたか?」
「はい、お母さま。でも、私、どうしても好きになれなくて―」
 言いかけた恵里に、春泉は僅かに厳しさを滲ませた声音で言った。
「好きになれないでは、いつまで経っても上達はしませんよ。厭々やっていると、どうしても苦痛になるでしょう? 短い時間でも良いから、今日はここまで、明日はあそこまでというように目標を自分で立ててやってゆかなければ」
「はい」
 しょんぼりとうなだれる恵里を見て、秀龍が笑った。
「母上は刺繍の達人だからな。母上のような名手に教わることができて、恵里は恵まれている。そう思って、気長に続けなさい。誰でも最初は思うようにできるものではないからね」
「はい!」
 優しく諭すように言う秀龍に、恵里は眼を輝かせて頷いた。後は扉を開けて、跳ねるように外へ出てゆく。
「お嬢さま、ここにおいででしたか。急にお姿が見えなくなったので、生きた心地もしませんでしたよ」
 乳母の声がまた聞こえ、二人が遠ざかってゆく気配がした。
「私が少し厳し過ぎるのでしょうか」
 春泉が戸惑い気味に言うと、秀龍は笑顔のまま首を振った。
「そのようなことはない。誰にでも得手不得手はあるものだ。恵里は恐らく、刺繍は本人も言うように苦手な部類に入るのだろう。恵里に言ったのと同じことをそなたにも申そう。気長に付き合ってやることだ。そなたのように売り物になるほどの刺繍ができるようになるまでもなく、あくまでも教養の一つとしてなら、恵里にもまだまだ見込みはあるだろう? 春泉」

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