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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

 父千福を喪い、母と二人だけで慎ましく暮らしていた時代、春泉は得意の刺繍を雑貨屋に売って、生計の足しにしていたこともあった。
「そうですね」
 春泉は過去を懐かしむように言った。
「私と旦那さまは少しだけ私の両親に似ているかもしれません」
「ホホウ、私は義父上のように大勢の女人にモテる男ではないぞ? 香月は別として、女人関係でそなたを泣かせているつもりもないが」
 秀龍は少し心外そうな顔である。
「いいえ、そうではないのです」
 と、春泉は説明した。
「私の家も、どちらかといえば父は私には寛容で、母は厳しすぎるくらいに厳しかったのです。ですから、私は幼い頃、母よりも父の方に親しみを感じていました」
「そうなのか? 今の義母上とそなたを見ていたら、嘘のような話だな。私が妬けるほど仲の好い母娘(おやこ)ではないか」
「そうですね」
 春泉は頷く。不幸にも父の死という一つの厳粛な事実を経て、自分たち母子の関係は全く変わった。少しずつ寄り添い合い、解り合い、長年に渡ってできた心の溝を埋めていった。

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