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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第16章 眠れる美女

 幾ら問題行動の多い嫁だとしても、他人に逢わせられないほどの酷い状態がこうも長引けば、もう少しは浮かない表情とか打ち沈んだ様子ではないのか?
 むしろ、このときの夫人の物言いは、かえって厄介払いを出来て良かったとでも言いたげな風でさえあった。
 あの夫人の態度を改めて思い出していた時、春泉は突如として現れた光景に息を呑んだ。
 少し前方に、小さな建物が建っている。小さいと言っても、例えば使用人一家が暮らす程度の大きさはある家だ。離れに見えないこともないけれど、それにしては母家から遠く離れすぎているし、簡素すぎた。近寄ってみると、建物の老朽化も著しく、長らく使用されていなかった形跡があった。
 春泉はふと好奇心に駆られた。その小さな家には、この(朝)国(鮮)のどの建物にでも見られるように正面に両開きの扉がついていた。その扉に手をかけ静かに開ける。
 外見の小ささを裏切らず、その建物はどうやらひと間しかないようだ。狭い室は昼間でもなお薄暗く、最初、春泉は眼が慣れるまでは室内の様子もしかとは判じ得なかった。
 漸く眼が慣れてきた時、春泉は思わず悲鳴を洩らしそうになった。辛うじて声を呑み込み、自らを落ち着かせるように片手を胸に当てる。
 狭い部屋には夜具が敷かれ、そこには一人の女人が横たわっていた。
 室内がほの暗いせいで、女の顔色は酷く悪く、蒼褪めて見える。
 ま、まさか死人?
 身体中の膚という膚が総毛立ち、寒くもない五月の下旬に身体がかくかくと震えた。
 それにしても、何故、こんな場所に死体が放置されているのだろう。
 春泉は震えながらも、よく確かめてみようと女の死体に近づいた。傍まで行っても、なかなか女の顔を見ようという気にはならなかった。
 と、春泉の中で突如として閃いたものがあった。
 もしや、この女は鈴寧ではないのか!?
 それは怖ろしいほどの確信をもって、春泉の脳裡に鮮やかに浮かび上がった一つの予感であった。
 続いて、先刻の吏曹判書夫人の態度が思い出される。大切なはずの嫁が寝込んでいるというのに、むしろ明るく、重荷を下ろしたかのような、あの態度。

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