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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第17章 月夜の密会

「うぅっ、あ、あっ、あぁ―」
 その声は止むどころか、次第に大きくなり、しまいには周囲をはばかる気すらないであろうと思われるほどの嬌声が聞こえてくる。
 外からでは灯火が付いているようには見えないが、時折、ちらちらと灯りがちらついているのを見れば、極力火を小さくしているのだろう。
「あ、ああっ」
 ひときわ高い喘ぎ声が響き、その後は、ふっと内の気配が消えた。
 春泉は息を潜めて、入り口の扉の前に蹲る。
 家の中から男女の低い囁き声がかすかに聞こえてきた。
「それにしても、上手くやったものだな」
 これは野太い男の声だ。
 対して、甘えたような癇に障る声は明らかに女のもの。
「この屋敷の者たちは度胸もない上に、頭の方もすっかり抜けてしまってるわ。でも、かえって、不幸中の幸いだった。何しろ、いつもの発作を起こして気絶した私をこの家の馬鹿な連中が何をとち狂ったのか、死んだと勘違いしてくれたんだから」
「だが、危ないところだった。連中がびびって、ここにそなたの死体を放り込んでくれたから良かったようなものの、まかり間違えば、そのまま死んだものだと思い込んで生き埋めにされてたかもしれないんだぞ?」
「本当に愚かな人たち。死んだはずの私をここに投げ込み、腐った死体を見るのが怖くて、そのまま様子を確かめにもこないだなんて」
「しかし、そのお陰で、そなたは生きていて、こうして私たちは存分に夜通し愉しめる。むしろ、この家の馬鹿どもに感謝してやるべきではないのか、ん?」
 ふふ、と、女の笑い声に媚が混じる。
「でも、いつまでもこのままというわけにもゆかないわ。ねえ、あなた。一体、いつになったら、私を外に連れ出し、あなたの屋敷に迎えて下さるの?」
 女がせがんだ途端、男の声にかすかな狼狽が混じった。傍にいる女は気づかないようだが、扉越しに洩れてくる声を聞いていると、かえって、部屋の中の状況が手に取るように判るのだ。
「あ、ああ。そうだな、その件については今少し刻をくれ。そなたを隠す適当な屋敷を今、探しているところだ。それにしても、そなた、亭主には少しも未練がないのか?」
 男は明らかに話題を変えたがっている。
 女もそれ以上は追及しなかった。

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