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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 奥まった一角には物置が一つ、ポツンと忘れ去られたように建っている。中には石臼や鋤、鍬などが仕舞われているはずだが、母家の近くにももう一つ、つい最近、物置を建てたので、こっちは普段は殆ど使われなくなった。
「小虎、小虎?」
 猫の名を呼ばわりながら庭の小道を進んでいる最中のこと、春泉は近くから泣き声らしいものが聞こえてきたような気がして、ハッと息を呑んだ。
「小虎!」
 春泉は希望に瞳を輝かせ、愛猫の名を呼んだ。耳を澄ませると、どうやら啼き声は少し離れた前方の物置から洩れてくるようだ。急に姿を見せて、愕いた小虎が逃げ出してしまっては大変とそこまで考え、とにかく傍まで行って確かめてみることにする。
 春泉は用心深く忍び足で物置に近づいていった。やはり、春泉の読みは外れてはおらず、一歩一歩近づいてゆく毎に、啼き声もよりはっきりと聞こえてくる。
 しかし、物置の手前まで辿り着いた時、春泉の表情はすっかり強ばっていた。
 この声は何だろう、猫の声にしては、幾ら何でも不自然というか、妙だ。厭な予感が湧き起こる。
 春泉はそろそろと物置の扉に近づき、戸にぴったりと耳を当て中の様子を窺った。
 やがて、猫の声だと思ったそれが人間の泣き声だと判るのに、たいした刻は要さなかった。
「ああっ、痛い」
 かすかなすすり泣きの合間に洩れる苦痛を訴える声、乱れる熱い吐息。それらを耳にすれば、男女のことはまだしかとは判らない春泉にも、この薄い扉の向こうで何が行われているかはおおよそ察せられた。
「お願いでございます、もう許して」
 懇願する声は、まだ幼さの残る少女のものだ。その刹那、春泉の中で不吉な予感が決定的な現実となった。
 四日前、屋敷の門前で留花を抱きすくめようとしていた父の姿が一瞬、眼に浮かぶ。
「うぅっ、あうっ―」
 女の艶めかしい喘ぎに、男のくぐもった獣のような声音が入り混じる。
 次の瞬間、女のひときわ高い嬌声が上がった。
「あっ、あっ、ああ―」
「どうだ、儂の申したとおりだろう? 痛いのは最初だけで、大分、良くなってきたはずだ」

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