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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 男の低い声には昏(くら)い愉悦の響きを含んでいる。見えないだけに―いや、中で繰りひろげられているあられもない痴態を見ないで、人声を聞いていることがかえって春泉のおぞましい想像を際限なく駆り立てた。
「旦那(ナー)さま(リ)、お願いでございまます。もう堪忍して下さいませ。こんなことが奥さま(マーニン)のお耳に入れば、私は殺されてしまいます」
 春泉は脳天を大きな金槌で思いきり打たれたような衝撃を受けた。
 間違いない。この中には父がいる。
 確信してしまうと、到底、その場所にそれ以上はいられなかった。そのままひそかに立ち去ろうと踵を返した瞬間、折悪しく脚許に転がっていた枯れ枝を踏んでしまう。パキリとかすかな物音がして、春泉は身体中の血が逆流するような気がした。
 頭上高くで百舌の鳴き声が静寂を切り裂くうように鋭く響き渡る。
 流石に物音に気づいたのか、父の鋭く誰何する声音が飛んできた。
「誰だ」
 反射的に、春泉は勢いよく扉を開く。壊れかけた引き戸がその弾みで本当に外れてしまうのではないか思うほどの荒々しさであった。
 しかし、今はそんなことに構ってはいられない。
「お父さま、良い加減にして。この間は留花を毒牙にかけようとして、今度は淳全(スンジヨン)を弄んだの?」
 扉を一気に開けた春泉は、思わず両手で口許を覆った。茫然と惚(ほう)けたように二人を見ているしかなかった。
 それは何とも酷い光景であった。一糸纏わぬ全裸の少女に覆い被さる父、少女の両脚は父の肩に担ぎ上げられた格好で乗せられ、これ以上は無理というほど大きく開かされていた。
 二人がここで何をしていたかは、何の説明がなくとも明らかだ。
 それにしても、その光景は春泉にはあまりにも衝撃が大きすぎた。許容範囲を越えた打撃を受けた場合、人は最早、声すら失ってしまうものなのかもしれない。
 父が組み敷いている娘スンジョンは柳家の女中の一人で、一年ほど前に来たばかりの新参者であった。そういえば、どことなく面立ちは留花に似ている。留花にせよ、この娘にせよ、美少女ではあるが、実際の年齢よりも幾分幼く見えるあどけなさが漂っている。

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