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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第17章 月夜の密会

 恐らく、二日前、春泉が鈴寧を見かけた朝も、彼女は情事の後だったに違いない。今夜のように男が忍んで通ってきて、情熱的な一夜を過ごしたことだろう。
 だからこそ、女の春泉がかいま見ても、思わず頬が赤らむような艶めかしい肢体だった。あれほど深く眠りこけてたのも、情事の後の疲れによるものだったとすれば、納得はゆく。
 が、幾ら、この二人が大胆不敵であったとしても、夜毎の密会を続けるのは無理がある。あの時、見た鈴寧は血色も良く、頬は薔薇色をしていた。鈴寧がこれほど元気でいれらるには、三度の食事を運ぶ者がいるのは必定で、たまに訪れる男が食事を運んでいたのでは、細々と生命を繋ぐことはできても、あれほど健やかに見えるはずがない。
 その点は春泉にもいまだ謎であった。考え込んでいた春泉の眼前で、扉がそっと開く。
 春泉は我に返り、咄嗟に物陰に身を深く隠した。
「それでは、三日後にまた」
「待ってるわ、愛しい人」
 二人の声が聞こえたかと思うと、扉が音もなく閉まる。
 春泉は身を潜めながらも、帰ってゆく男の正体を見極めようとしたが、生憎と後ろ姿だけでは、どこの誰かまでは判じ得なかった。
 だが、上等な仕立てのパジチョゴリやその物腰から見ても、かなりの身分の両班であることは間違いはなさそうだ。
 あまりに身を乗り出しては相手にバレてしまう。そうなっては元も子もなく、春泉は男の正体を突き止めるのは早々と諦めた。
 何より、今、最も重要なのは鈴寧の浮気相手ではなく、死んだはずの鈴寧が実は生きているという事実なのだ。
 と、ふいに向こうから、ひそやかな脚音が聞こえ、春泉は身を強ばらせた。慌てて再び物陰に蹲る。
 今度現れたのは男ではなく、女であった。この屋敷の女中らしく、質素なチマチョゴリを纏い、手には小卓を抱えていた。
「奥さま」
 外から小さな声で呼びかけ、若い女中は扉を開けて中に消えた。
 ちらりと見ただけだが、小卓の上には結構なご馳走が並んでいた。これで、春泉の第二の疑問は漸く解決した。

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