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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 光王の母の父となった男は、そんな客の中の一人。一体、大勢の客の中で、一人くらいはたとえいっときでも、祖母を真っ当な人間、〝女〟として愛しんだ男はいたのだろうか。
 母には馴染みがいた。上流両班の跡取りで、その父親は何とか判書とかいったから、結構お偉いさんだったようだ。
 けれど、母も結局、棄てられた。理由は簡単、光王を母が身籠もったからだ。そう、彼の父親はれきとした両班なのだ。
 まあ、そんなことは自分には全く関係のないことだが。この国ではたとえ父親が両班であろうと、母親が妓生であれば、妓生の息子として生きるしかない。
 ましてや、俺の父親は、俺が生まれる前に我が子を棄てたのだ。
 母が若い身空で亡くなってから二年後、彼は妓房を飛び出した。幾ら綺麗な外見が女に間違われることが多くても、彼はれっきとした男だ。妓房では女の子はそれなりの扱いを受けられるが、男の子は成長しても商売物にならないから、邪険にされる。
 妓房を出てから、あちこちを流離い、結局、都に舞い戻ったのが七年前。十歳のときの話になる。でも、どこにいても、彼の暮らしはさして変わらなかった。腹が空けば、そこら辺の店や家に忍び込み、ほんの少しのお裾分けを貰う。要するにかっ払いだ。
 いよいよ困ったときには、掏摸(すり)もやった。そんなことを数え切れないほどくり返し、光王は何とか細々と生命の焔を繋いできたのだ。
 都には彼とよく似た境遇の子どもが何人もいた。度重なる飢饉で田畑を棄てた農村の連中が都に出てくる。大抵は都に来れば、何か仕事があるかと期待して来るんだが、誰もかも似たようなことを考えるし、都には人が腐るほど溢れてるから、そうそう甘くはない。
 結局、住む場所も失い、仕事も見つけられずで、路上生活者になるしかない。俺のダチになったのは、そんな訳ありの両親に棄てられた子ども、或いは親が死んじまった―要するに世間ではみなし児と呼ばれる連中ばかりだった。
 みなし児はみなし児同士、傷の舐め合いってわけじゃないが、俺たちは皆、互いに兄弟だと思って助け合った。まあ、よくよく考えてみたら、世の中広しといえども、俺たちのように、ここまで落ちてくる人間は滅多にない。貧しくとも何とかその日を暮らしてゆける程度とか、家も金もなくても、親はちゃんといるとか。

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