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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 でも、俺たちは本当に潔いくらいに何も持ってない。家も金も親も。なーにもないんだ。
 皆、色々な事情があった。話を聞けば、俺よりもまだ酷いんじゃないかっていうような奴も一人か二人はいた。
 で、気が付いたら、俺はそいつらの〝親分〟ってことになっていたんだが、言うほど格好の良いものではない。要するに、浮浪児集団の親玉ってところだ。
 俺は手下とか子分っていう言い方は、あまり好きじゃないから、今でも奴らをダチだと思ってる。俺がこうして河原で呑気に寝転がってる間にも、都には二十人近いダチがどこかにいる。そう思えば、みなし児も棄てたもんじゃねえ。そう思わねえか?
 俺には十六人の兄弟(ダチ)がいるんだ。今更、親父やお袋が恋しいなんて、思いもしねえや。マ、お袋のことは、ほんの少しは思い出すこともあるけど。苦労のさせ通しで死んだから、もう少し楽させてやりたかったなとか思うよ。
 俺はその大勢の弟の兄さんだから、弟たちを喰わせてやらなきゃならない。時には自分の食べ扶持を削っても、奴らに喰わせてやることもあるさ。
 別に俺はそれでも良いんだ。誰かのために何かがしてやれるってのは、まだ自分に余裕があるって証だろ? 言っとくが、俺は何も格好つけたり、驕ったりしてるわけじゃねえ。俺は一人じゃない。そう思わせてくれる兄弟は、俺にとっては大切な宝であり家族なんだ。だから、大切な家族が一人でも欠けたら厭だし哀しいから、俺が家族を守るって決めてる。ただそれだけなんだよ。
 おっと、断っておくが、流石に十七にもなって、掏摸やかっ払いはやってないぜ。昔は悪事もやったけど、今は真っ当に小間物の行商なんぞしてる。―と、マ、そういうことにしとこう。
 え、何だって。本当は何か悪さをしてるんじゃないかって? へへ、そいつは訊くだけ野暮ってヤツさ。でも、俺の名をここいらで出せば、ちっとは顔が利くから、便利だぜ。ちょっとした小悪党なんかは、それで引っ込む。
 二、三ヵ月前だったかな。市で法外な値を吹っかけたノリゲを売りつけられようとしていた女の子を助けてやったんだぜ。結構、可愛い娘だった。ちょっと色は黒いけど、何と言うか大人びた感じで、口許なんか凄え色っぽいんだ。もっと濃い化粧をすれば、ふるいつきたくなるような良い女になるね、あれは。

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