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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

 どういうわけか、当人は自分を醜女(ブス)だと思い込んでるんだけど、何でかねえ? 勿体ない、あれじゃ、宝の持ち腐れだ。
 ほら、やっぱり、何かやらかしてるなって?
 その歳で、いっぱしの色男みたいなことを言うんじゃないって?
 まあね。生きてくには色々とあるんだよ。普通に生きてりゃ、できないようなことも裏技を使えば、意外にすんなりとできたりしてね。
 例えば、妓生の腹から生まれた子は母親と同じ隷民として扱われる。でも、俺は都に来てから、裏で手を回して常民の身分を手に入れた。もちろん、それなりの金子を積んで、そっち方面に顔のきく手づるがあったから、できたことさ。
 確かに、その辺を歩いてる人が想像もできない世界ってものが世間にはある。そんな闇の世界を俺が全然知らないって言えば、真っ赤な嘘になる―と、それだけ言っておこう。後はこれで適当に察してくれよ。
 格好つけて話してるつもりが、いつのまにか、ダチに喋る口調になっちまった。まあ、良いか。
 光王は数回、まばたきした。
 もし誰かに自分の境涯について訊ねられたとしたら、こんな風に応えてやるだろうな。そう思いながら考えてみたのだが、随分とご愁傷さまな話になってしまった。別に誰かの同情を引きたいと思っているわけではないのに、悲惨な話になってしまう。しかし、これが現実なのだから、致し方ない。
 馬鹿みたいだな。自分で自分の身の上を思い出して、泣きそうになるなんて。
 女々しいこと、この上ない。
 光王は長い物想いから自分を解き放った。
 長い指先で眼尻にうっすらと滲んだ涙をぬぐい、食い入るように先方を見る。
 この川は都の外れを流れる小さな川だ。名前も知らないほどである。こんな川でも近くの住民にとっては、洗濯をしたり飲み水を汲んだりとなくてはならない大切な水源なのだ。
 だから、洗濯か野菜でも洗いにきた女かとも思ったのだが、どうも違う。自分とさほど歳の違わぬ若い男が今しも川にざぶんと飛び込もうとしているところであった。
 冗談じゃねえ。
 こんなところで身投げに出くわすなんて、寝覚めが悪いじゃないか。

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