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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 あの父ならば、十分にあり得ると。
 こんな時、自分の父を信じられないというのは娘としてとても哀しいことだった。が、春泉は娘であるだけに、父がどんな人間かをよりよく知っている。
 母はかつては父の子を孕んだ女たちに酷い折檻を与えたものだった。その結果、死んだ者も何人かはいた。しかし、母は何も殺そうと思って殺したわけではない。むろん、結果としては同じだし、人殺しに殺人の意図の有無は言い訳にはならないだろう。
 母は意図して人を殺せるような女ではない。しかし、父であれば、はっきりと明確な意思を持って人を殺すだろう。殊に、その人物が自分にとって邪魔、あるいは不利益をもたらすとなれば。
「どうして、どうして―、お父さまはあの娘を殺したの」
 力なく問うと、光王は淡々と言った。
「あの女中がお前の父親を強請ったんだ」
「そんな」
 春泉は絶句した。
「自分の腹の子を柳家の跡取りにして欲しいと迫ったんだよ」
 春泉は唇を戦慄(わなな)かせた。
「お父さまは私を嫁がせるつもりでいるのよ。私が他家に嫁げば、柳家を継ぐ子どもは誰もいなくなる。なのに、どうして、お父さまはスンジョンの子を殺したのかしら」
 光王がフと小さく笑った。
「お前の親父の腹の内までは判らねえ。けど、お前が結婚すれば、当然ながら、ガキが生まれる。親父はお前の生んだ子ども―孫にでも継がせようと考えていたんじゃないのか」
 春泉はハッとした。
 何故、父が礼曹判書の息子に自分を嫁がせたがっていたのか。春泉が仮に二人以上の男児をあげた場合、当然、長男は婚家の跡取りとなり、次男以下は別家を構えることになる。他家に聟養子に入るという手もあるだろう。
 もし、父が春泉の生んだ外孫を引き取り、養子とすれば、どうなる? 両班家の血を引いた柳家の当主が誕生するのも夢ではない。
 計算高く狡猾な父は恐らく、そこまで考えていたのだろう。春泉に聟を迎えて、そのまま柳家を継がせるより、一旦、両班家に嫁がせて、子が生まれるのを待つ。そうすれば、この国を作った太祖(テージヨ)大王の御世から連綿と続くという名家、しかも現役の判書の孫を柳家に迎え、高貴な血が柳家に入ることになる。
 そうなれば、たとえ常民とはいえ、柳家の格は上がり、家門にも箔がつくのは必定だ。

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