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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

「そう―よね。あのお父さまなら、それくらいのことは当然、考えているはずだわ。そんなことにも気づかないなんて、馬鹿ね。私って」
「ここまで話しても、お前は俺の話をまだ信じないか?」
 春泉は光王に向かって哀しげに微笑んだ。
「いいえ。信じるわ。第一、あなたは嘘を言うような人ではない。あなたの言うとおり、私に嘘をついても、あなたには何の特もないもの」
「―俺が嘘をつくような人間じゃない?」
 光王が春泉の言葉をなぞる。
 春泉は儚く微笑った。
「ええ。あなたは嘘のつける人じゃない。それだけは信じられる」
 光王は小さく息を吐いた。
「生憎と、お前は俺を随分と買い被っているようだ。先刻、お前は俺を汚いと言ったが、俺はずっと男娼紛いのことをしてきた。お前が最も軽蔑するという―自分の身を売って生きてきたんだよ。俺には大勢の兄弟がいる。そいつらを養うためには、安い小間物を売り歩くだけでは、到底、追いつかねえ。生きるためには仕方なかった。その気持ちがお前に判るか?」
 光王は端整な顔を歪め、怒りを込めて、せせら笑った。
「屈辱に震えながら、好きでもない女を抱く。その苦痛がお前に判るとでもいうのか?」
「光王―、私が悪かったわ。あなたが自分できちんと考えて、生きるためには仕方ないと思ってしたことなら、私に口を挟む権利はなかっ―」
 思わず慰める口調で声をかけた春泉に、光王が怒鳴った。
「煩い、黙れ! 最後まで黙って聞けよ。だから、お前は何も判っちゃいねえんだ。自分の身体を切り売りするのに、いちいち真面目に考えてちゃ、何もできねえんだよ! 死んだ気で―半分自棄っぱちになんなきゃ、そんなことはできゃしねえよ」
 光王の双眸に蒼白い火が燃えていた。

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