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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

「金持ちの女や両班の奥方は俺の腕の中で見苦しいほど身悶えておきながら、いったん事を終えた後はまるで薄汚い虫けらでも見るような見下した眼で俺を冷ややかに見た。そして、乞食かくたばりかけた野良犬にでも餌を恵んでやるようにぞんざいな態度で金を俺の前に放り投げてきた。俺に抱かれて、あられもない声を上げて甘えて身をくねらせたことなんざァ、これっぽっちも感じさせないように、つんと取り澄ましやがっていたな。薄汚れてるのは手前の方だろうってえいうのに、かような下郎の顔なんか見たこともねえようなふりをして、〝用が済んだなら、さっさとこの屋敷から出ておゆき〟と、こうだ。床の中では〝もう放さないで〟とか何とか言って、しがみついてきたくせに」
 これ以上、聞いていられなかった。光王はまだ十七、八のはずなのに、自分と変わらない若さで、これほど壮絶な人生を歩んできたなんて。
 更には、彼が滔々と語った生々しい内容―彼と彼が拘わってきたあまたの女たちの拘わりの方も春泉を打ちのめした。光王はたった今まで、母の寝室で彼が話したような淫らな関係を春泉の母と結んでいたのだ。
 光王が母を抱いた―、その揺るぎない事実は春泉の心を引き裂き、ずたずたにした。
「もう止めて」
 春泉は思わず両手で耳を塞いだ。
 だが、光王の容赦ない言葉のつぶては間断なく追い打ちをかけてくる。
「お前のような乳母日傘で育てられたお嬢さんには想像もつかないような苛酷な現実がこの世にはごまんとある。俺はこれまで何度、この世の修羅場を見てきたかしれねえ。俺の喋ってることは、あんたのお上品な耳には耐えられねえのかもしれないが、これが現実だぜ、苦労知らずのお嬢さん?」
「確かに、あなたの指摘するとおりかもしれない。私は世間のことも知らないし、ろくに苦労をしたこともないわ」
 でも、と、生まれて育って、一度も幸せだと思ったことはないの。住む場所、食べる物、何一つ困ることもなく恵まれた生活、望めば何でも与えられてきた。それで、幸せではないと言えば、また、あなたに怒られそうだけど」
 春泉は滲んできた涙を手のひらでこすりながら続けた。春泉は光王を感情の読めない瞳で見つめた。

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