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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 ああ、と、光王は大きく頷いた。
「最初から行くべき場所は決まっているのかもしれない。でも、あがくだけはあがいてみても良いと思うんだ。不平だけ言ってて何もしないよりは、自分にできる目先のことから始めていけば、もしかしたら運命さえも動かすことができるのかもしれないって、最近はそんなことを考えるようになった―なんて、ちょっと格好つけすぎかな」
「あなたって物凄いことを考えてるのね。ちょっと見直しちゃった」
 春泉が褒めると、光王は彼らしくもなく照れたように紅くなった。
「何だよ、それ。お前こそ、意外と頭が良いじゃないか。最後まで聞かないで、俺の話が判ったんだからな」
 光王が負けずに言い返すと、春泉が軽く睨んだ。
「あなたこそ、それはどういう意味なのよ。意外となんて言われたら、褒められてるのか、けなされてるのか判らないじゃない」
「一応、褒め言葉だと受け取っておけよ」
「一応ですって?」
 春泉がまた声を尖らせた時、光王が唐突に言った。
「なあ、そんなにこの屋敷を出たいのなら、俺と一緒に行かないか?」
「行くって、どこに?」
 春泉はまたしても意外なことを言い出した光王の意図を計りかねた。
「うん、そうだな」
 思案げな顔で春泉を見ていたかと思うと、ひと言、呟くように言った。
「ここではないどこかへ」
「ここではない―どこか?」
「そう、誰も俺たちを知らない遠い遠いところ。漢陽でないことは確かだな。都からずっとずっと離れた地方でも良い。お前が望むなら、俺は今までの自分を棄てて、お前と一緒に生まれ直したつもりで生きてゆこうと思う」
「―本気なの?」
「本気も本気さ」
 春泉は光王の端整な顔をじっと見つめた。しかし、淡い微笑を刻んだその面からは、それら一切のやりとりが冗談がどうかは判らなかった。 
 一瞬、春泉の心が揺れた。
 彼の言うような生き方も良いかもしれない。今までの自分を棄てて、生まれ直したつもりで生きてゆく。

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