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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 光王が大勢の女と拘わり、金のために身売りまでする男だと知っても、更に、自分の母とまで関係を持ったと知った今でも、その想いを止められない。こんな好きになってはいけないのかもしれないとすら思うほどだ。
 忘れてはいけない。彼は自分とは違う世界の人であり、この恋が叶うことはない。
 思いがけない再会が春泉に気づかせたのだ。自分はあの男に恋をしている。物語で読んだ恋したときの気持ちとは少し違うようだが、これは紛れもなく恋だ。
 誰かを物狂おしいほど想う気持ち、鎮めようとしても、どうしても鎮められない焔が今、春泉の心でひそかに燃えていた。その想いは今も、このときも光王だけに向かって流れている。
 それでも、この恋が報われることはない。静かに燃え盛る焔を内に抱えたまま、春泉はずっと一人で生きてゆくのだ。
 春泉は祈った。
 父が無事であることを、何事も起こらず、このまま刻が緩やかに過ぎてゆくことを。光王の別れ際の言葉がけして現実にはならないことを。
 玉彈にじゃれつく小虎の鳴き声と玉彈の朗らかな笑い声がそろそろ夕暮れの近づいた春泉の居間に長閑に響き渡った。

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