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山崎少年にしてみれば恵美を投げられれば
それで満足だったのだ。
彼の柔道の成績はかなり良い物で
小学生の部で全国大会に
出るまでになっていたのだが初戦敗退。
上には上がいる事を知り
一年前にケンカで負けた恵美に勝つことで
今後の弾みにしたかったのだ。

そのことを初めに告げられたので
恵美も挑戦を受けたのだが
思った通りに綺麗に投げきった事で満足し
力を抜いた時に恵美はスルッと
身体を返して山崎少年の腕を取ると
腕ひしぎ逆十字に固めてしまった。

思春期の山崎少年にしてみれば衝撃である。
眼の前で女子がスカートをひるがえし
技を決められてしまったのだ。
しかも女子のパンツを間近で見た上に
下腹部と素肌の太ももに腕を挟まれ
痛さよりも恥ずかしさが勝り
すかさずタップを余儀なくされた。

実際に恵美の技は形だけで
関節は決まっておらず
もがいて抜けようと思えば
彼なら簡単なことだっただろう。
しかし恵美に勝ちを宣言されれば
渋々ながらも認めるしかなかった。

これがきっかけになり小学校内で
恵美の株は上がり山崎少年は女子に負けた
汚名を背負うことなったなったのだが
ことある毎に恵美が「勝たせてくれた」と
言っていたので必要以上に山崎少年が
卑下される事はなかったし
恵美との事で技の後に気を抜く過ちに気付き
これを教訓に彼はさらに柔道に打ち込んだ。
だが中学校は隣の区域の中学に進んだので
小学校の卒業から会うことはなかった。

そして進学した高校で恵美と山崎少年は
再会することとなった。
入学当初から山崎は180cm100kgに迫る体格と
人相も厳つく言葉も少ないので
一見して男子にも女子にも怖がられていた。
そんな中でただ一人恵美だけが
顔見知りと懐かしさとで気軽に話しかけ
生徒会にも誘ってくれた事で周囲の偏見も薄れ
人の輪の中に入る事ができていた。
同じ理由で中学時代も部活以外では
割と孤独だった山崎にとっては
恵美のこの行動は感謝でしかなかった。


当の恵美は生徒会の庶務の人手が足りず
身体の大きい山崎なら何かと便利だと
声をかけたに過ぎないのだが
山崎にとっては生徒会の人たちとの繋がりや
「生徒会の山崎」という肩書が
他の生徒との間を縮めてくれていたし
自分の存在が風紀にも効果があると
先輩諸氏から聞き複雑な気持ちではあるが
役に立っていると嬉しくもあった。