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RAIN

第10章 裁かれた母子の行末《拓海side》

あたふたと慌てる彼に、俺は不手際な行為だったかと頭を巡ってしまう。
「え、でも拓海さんは俺より年上で……、タメ語なんて図々しいというか失礼というか……」
今まで落ち着き払っていた彼は途端に動揺し始めた。
「俺がそうしてほしいんだ。だいたい俺たち友達だろ? 友達なのに敬語なんておかしいよ」
俺の台詞に、翔がほんの一瞬だけ眉を潜め、傷付いた表情を垣間見せた。どうしてそんな顔をするのか、その時の俺には全く分かっていなかった。
だが翔はすぐに「わかりました」と返事を返した。
「拓海さんがそれでいいというなら」
その返答に俺も安堵の息を漏らす。

「えっと……拓海さん、もし迷惑でなかったら、もう少しだけここにいてもいいですか? ……じゃなかった! いてもいい?」
すぐに訂正する彼は本当に律儀だ。
「別に翔が疲れなければ……」
苦笑しながらも了承の意を唱えれば、翔はますます破顔する。

翔の嬉しそうな笑顔を見て、俺はとりあえず水分補給させるために立ち上がる。不思議そうな表情で見上げた彼に、安心させるためになんとか微笑みながら「何か飲み物持ってくる」と一言告げれば、翔も納得し、こくりと首を縦に振った。


コーヒーが苦手な翔のために紅茶を二人分用意し、すぐに翔の待つ居間に戻る。
彼は自分に宛てられた場所へと戻っていた。
はい、と彼にカップを渡し、俺も定位置に座ればしばらくはお互いに紅茶を堪能する。

「拓海さんって一人暮らし長いの?」
翔から提供された話題の内容に、俺は無感情に「まあね」とだけ返す。
しかし翔は別にそんな俺の返答に気にする風もなく、へぇーっと反応した。
「すごいよなー……」
憧憬にも似た眼差しで見つめられて、俺は内心居心地が悪かった。そこまで尊敬されるほどのものじゃない。


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