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魔境夢想華

第3章 交差する不安《凜視点》

「遅かったじゃん」
橋本が俺に声を掛けてきた。
とにかく橋本は何かと俺に話し掛けてくれる。

転校初日も、右も左もわからない俺にすぐに声を掛けてくれたのはこの橋本だ。
愛想のいい笑顔で迎えられ、俺は何とか不慣れなこの学校に少しずつ溶け込めるようになっていた。
それでもまだまだこの学校には未知な部分もあったが。
「ああ……、ちょっと人とぶつかっちゃって」
正直に話せば、すぐに橋本が反応してきた。
「ぶつかって? まさかいちゃもんつけられたのか?」
「あ、いや……。その反対で、謝られた」
その返事に橋本のふぅーと息を吐くのが洩れた。
「なぁーんだ。俺は一瞬、ヤバいことになったのかと心配しちまったよ」
心底心配してたような表情が俺へと向けられ、俺は温かい気持ちになる。
ほんと、橋本と知り合ってよかったと思う。
「ごめん」
心からの言葉を述べれば、橋本が照れくさく感じたのか、「別にー」と言い返してくる。

「それでどんな奴だったんだよ?」
それでも相手が誰なのか、気になるようで更に食いついてきた。
「え……、確か岸谷貴史って言ってたな。三年生だって……」
さっきの彼の姿が浮かんでくる。

「えっ、マジ!?」
急に橋本がものすごい勢いで反応を示してきた。
そんな橋本の様子に、俺は何、と返してしまう。
「岸谷貴史って生徒会長じゃん!」
「え? そうなの?」
そう言われてもだから何、て気分なんだけど。

生徒会長だからなんだっていうんだ? そりゃあ学校内にしたら有名人に値するんだろうけど、でも大したことじゃないだろ。そこまで驚くほどのもんでもないと思うけどな。
「容姿端麗、頭脳明晰、性格良好。校内人気投票トップスリーの一人だぞ」

……校内人気投票? トップスリー? なんだ、そりゃ。
生徒会長は納得する。俺から見ても彼はそのタイプに見える。性格もよさそうだった。

しかし人気投票ってなんだよ。この学校もちょっと意味不明なことやるんだな。

「あ、何でそんな嫌そうな顔をしてんだよ?」


思わず今の気持ちを表に出してしまっていたようだ。不覚だ。
しまったと思いながらも、どう言い訳するか浮かばず、俺は引き攣った笑みを零すことで誤魔化そうとした。
勿論、それは無意味になってしまったが……。


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