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魔境夢想華

第4章 魔物《凜視点》

「まだ頭は痛い?」
先輩も俺の隣に座ると心配した声で、軽く上半身だけ俺にと向かい合う形になる。
「あ……、もういくらか楽になりました。ありがとうございます。先輩には色々と迷惑掛けちゃって……」
謝罪の言葉を口にする俺に、先輩は今も微笑を湛えている。
「それはよかった……」
そう返した先輩の両手が、俺の両肩の上に手を添える。

何事かと先輩を不審に思いながら見ている俺に、先輩の微笑が徐々にだが違う表情にと変貌していく。



「先輩?」
不安を隠せない俺の肩を押し、俺は意味も解らないまま抵抗することすらも思い浮かばず、ただ先輩の手に入る力に従うようにして、ソファへと身を沈めていく。


「いいんだよ。だって僕は君が気に入っているからね」
今までの微笑は消え、今の先輩は口角を上げ、瞳はすっと細め、俺を真上から見下ろす冷笑へと変貌していた。

まだふらつく頭を軽く振り、霞む視界を何とか開けば、今まで見ていた風景はそこにはなく、先輩の冷やかな顔とその隙間からは白い天井しか見えない。
一体、何が起こったというのか。一瞬のことで頭が正常に働いてくれない。いや、痛む頭では正常な機能を期待するだけ無駄というものだ。



今までの穏やかな先輩の姿は何処にもない。
今、俺の目前にいる彼はまともではない。そう、まともではなかった。

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