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パパはかわら版

第5章 パパはかわら版D

橋龍は、仕事場にいた。平凡屋では、米の値段がまたかなり上がっていることが今日のネタというか、瓦版の記事の中心だった。経済が悪くなれば、必ず米の値段というのは、左右される。景気がよくなっても悪くなっても米の値段は上がるのが普通だった。場合によっては、米商人に買い占められて、酷く値がつり上がることもある。いくら酒井大老が、賄賂政治家だといっても、それを放置しておくわけにはいかなかった。幕府もこういうときは、米相場で米価の安定をはかろうとしたのだ。まだ、この頃の時代というのは、一揆だ、打ち壊しだというところまでは行かないのが普通だったが、しかし、米相場というのは、打ちこわしが原因でできたわけだから、全く一揆や打ちこわしが身近なところにはないというわけではなかった。やはり、米の値段が上がれば、米倉が襲われるぐらいのことは、江戸近辺でも起きたのだ。平凡屋では、下野で起きた事件を取り上げていた。直接、取材ができるところでもなかったので、又聞きの又聞きのような、話だったが、そういったことは、江戸の庶民の感情にも影響を与えていた。米の値段は、まだ上がり始めたばかりだが、飢饉でも起きれば米商人が買い占めに走り、庶民の生活が成り立たなくなるのは、分かり切っていた。我慢強いことで有名な下野で、かりに1軒や2軒だとしても、米倉が襲われたわけだから、それは、幕府や庶民それに、瓦版にも何らかの影響があってもおかしくなかった。瓦版には、幕府からの圧力がかかることもあるし、そういった意味での緊張もあったが、もちろん平凡屋では、それを大きく取り上げたのだった。平凡屋では、知識人の意見なども取り上げた。幕府の政策に口を挟むというのは、なかなかこの時代は難しく、平凡屋が意見を書くというようなことはできなかったが、それでも、儒学者で高名な知識人の意見を載せることは、許されていたわけではないが、そこまでは幕府もあまり口出しはしなかった。

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