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パパはかわら版

第4章 パパはかわら版C

この話に関しては、橋龍は、いくつかのつてというわけではないが、勘定奉行所には、何人か顔が利くような相手がいた。その中の一人が、弥生の兄の堺一弘だった。一弘は、旗本家の跡取りというだけでなく、勘定奉行所でも、出世頭と言っていい。勘定奉行所というのは、財務事務を行う勝手方と司法を司る公事方に分かれていた。勝手方と公事方は、隔年交代で執務を執り行うことになってた。役職は、勘定奉行(4~5人)の下に、勘定組頭、勘定、支配勘定などがあった。そして監査役として、勘定吟味役が置かれていたのだ。役人には、役宅が与えられ、公事方は、役宅で勤めをこなしたが、勝手方は、江戸城内や城下の奉行所内に勤務した。一弘は、勘定の地位にあり、それなりの責任はあったのだ。橋龍と堺兄妹との付き合いというのは、もともとは、一弘との付き合いからはじまっていた。それは、平凡屋の瓦版だったためだが、飲んだり食べたりという機会は、昔は結構あった。それは、一弘がまだ若くて、独身だったということもあったし、それほど、責任のある地位にいたわけではなかったからだったともいえる。しかし、現在は、橋龍は、平凡屋の顔になり、一弘は、勘定という地位についたということもあって、あう機会というのは、かなり減ってはいた。それでも、以前からの信頼関係みたいなものは、存在していたと言っていいのだが、そもそも、瓦版と奉行所では、立場の違いというのがあるわけだから、ましてや、役所で出世したともなると、そう簡単には、昔のように気軽に会える間柄でもなくなっていくというのは当然のことだったのだ。酒を酌み交わすことはなくなったが、それでも、年に何度かは、お茶を飲むくらいのことはあった。もちろん、その場では、奉行所の話もしたりはした。しかし、だからといって、一弘がすべて橋龍と同じ立場に立ってはなしをするはずもないのだが、それでも国の将来を憂慮するところでは、一致していた。弥生は、一弘が偶然居合わせたときに、橋龍に紹介しただけだったが、それが2人の付き合いのきっかけになったのは、間違いなかった。橋龍にとっては、もちろん、気が引けるつきあいだったのだが、そう感じさせないものを弥生は持っていたのだ。

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