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林道

第1章 其の一

少し風が出てきたようだ。
葉が擦れてザワザワする。
見上げると雲の流れが速い。

「雨が降るかもしれない」
タカヤが言う。

林の中は、次第に薄暗くなってきている。

気温はまだ高い。

雨に打たれなければ、野宿をしても体調を崩すことはないかもしれない。

しかし、野宿といっても、装備なんてない。

テント、寝袋、水、食料はもちろん、ライターもないので火もおこすことはできない。

雨、夜露をしのぐために、今の内に寝床を探さないといけない。

夜になる前に。




「夜になる前に」

カノンは願うように言う。

林を抜けたかった。

景色に変化のない林道をひたすら歩いてきた。

喉が渇いている。

腹も空いてきた。

足も疲れて痛い。

全身が重い。

おまけに雨が降りそうだ。


「まいったな」


「まいったわ」


カノンだってわかっていた。

このまま進んでも、暗くなる前に、林道を抜けるのは難しいだろう。

ただ、ひょっとすれば、突然目の前が開けて、町が姿を見せるかもかもしれない。

町でなくても、アスファルトで舗装された道路があれば、いつか町に出られる。

いや、林を抜けて、そこが野原でもいい。

人に会えなくてもいい。


今はもう、自分が


―前に進んでいる―


という実感が欲しかった。

ずっと、林道を歩いていると、まるで同じところをぐるぐる回って、永遠に抜け出せないような錯覚に陥るのだ。

足を踏み出すたびに、焦りが生まれ、じわりじわりと絶望が体にまとわりついてくる。



―そう、夜の闇のように。

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