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林道

第1章 其の一

暗くなってきている。

乗数的な早さで。

日が他の山に入れば、あっという間に辺りは真っ暗になる。


寝床を探さないと。


カノンは辺りを見渡す。


今は谷間にいる。

小石が散在している。

少し先に尾根がせりだしている。

下には細い小川が流れている。

ここは風が悩まされる心配はないだろうが、夜は小川の冷気が体温を奪ってしまうだろう。

カノンは小川に近づき、屈んで、流れる水をすくって口をすすぐ。

冷たい。

一口だけ飲んで水分を補給する。


「あそこはどうだろう?」

タカヤが尾根の中腹を指して言う。


大きな岩が見える。

岩影なら雨露をしのげるかもしれない。


岩を目指して、急な山肌を杉の幹を掴んで登る。

枯れ葉で足が滑ってなかなか上がりにくい。

だが、もう夜はそこまでやってきている。

―はぁ、はぁ。

カノンの息が荒くなる。


もう少し。


岩を掴んだ。

タカヤも後に続く。


近くまでくると、本当に大きな岩だ。

高さは4,5メートルあるだろうか。

カノン達が取り付いた方はなだらかな斜面になっている。


これでは雨避けにならないので、裏側に回ってみる。

―よかった。

裏側は鋭角に岩が割れ落ちて、ちょうど屋根を作るようになっている。

屋根の下に潜り込む。

割れた岩がいくつか並んでいて横風をある程度防いでくれそうだ。

「ここなら大丈夫。」

カノンが安堵して言う。

まだ完全に日は落ちていない。

外に出て二人は枯れ落ち葉を集めて、屋根の下に敷いてベッドをこしらえた。

岩場に直に座ったり、寝るのは体も痛いし、冷えてしまう。

ベッドを作れば少しはマシだろう。

こうして今夜の宿が決まった。



カノンは枯れ葉のベッドに腰を下ろす。

どっと疲れが出る。

―はぁー。

大きく息を吸って吐く。

溜め息のつもりはなかったが、吐いた息の先の静寂とその暗さに改めて気付いて、思考が止まる。


―疲れた。


タカヤもカノンの様子を見て何も言わずに横に腰をおろす。

二人は並んで座り、すっかり暗くなった林を見つめた。

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