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林道

第1章 其の一

「ごめんね」

カノンは闇に呟く。

ざわざわと木々が返事をするように音を立てる。

「ごめんね」

もう一度、カノンは呟く。
小さな声は闇に融けていく。

―どうしてこんなことに。
カノンは抱えた膝に顔を埋める。

涙が出そうなのに、泣けなかった。

ただ、寒い。

肩が震える。


タカヤはそんなカノンを見て、そっと上着を掛けてやる。


「謝る必要なんてないんだよ」

―そう、もう、謝る必要なんてないんだ。

かわいそうなカノン。

永遠にこの林をさまようのか。

一人には出来ない。

俺はカノンと一緒にいる。
これまでと同じように。

一緒に。

闇を見つめていると、次第に空間が歪んでうねりを呼ぶ。

昼夜の寒暖の差が、空気に淀みを作って、視覚に捉える映像を、ただ、歪めているのかもしれない。

科学的に説明すれば。

ただ、歪めているのかもしれない。

ただ、歪めている?

誰が、何のために。

科学的に説明がつくだろうか。

否。

俺にはわからない。

でも、違う気がした。

わからないが、何かある。
カノンの肩を震わせ、泣かすこともさせない、何かがあるんだ。

タカヤは、うねり続ける闇に引きずり込まれないように、朧気に木々の合間に見える、見えるはずのない何か、をじっと見据えていた。

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