
あたしのご主人様!
第2章 ご主人様とピンクローター
……あの人?
あたしはすぐさま服装を確かめた。
間違いない。メールで言われた服装と一緒だ。
その男性もすぐにあたしを見つけ、つかつかとこちらに向かって歩いてくる。
緊張で強張っていたあたしの前まで近付いてきて、言った。
「愛ちゃん、だよね? 初めまして。シュウです」
差し伸べられる手。握手を求められているとわかるまで三秒ほどかかった。
「は、はい、羽田愛華ですっ! 初めまして!」
あたしは慌てて、男の手を取った。
けれどシュウと名乗るその人物は、一瞬訝しげに眉をしかめた。
その表情の意味がわからず、あたしもぽかんとする。
次の瞬間、はっとして自分の口に手をやった。
「羽田愛華ちゃん……ね」
……名前。
今までのメールでは、本名を伏せて『愛』とだけ名乗っていた。
今日も本名を明かす気はなかったのに。会って数秒で、暴露してしまうとは。
あまりの自分のマヌケさに、恥ずかしくなる。
シュウはくすりと笑って言った。
「愛ちゃんて、可愛いね」
「え……」
思えばこの時が、この人があたしに対して『可愛い』を使った初めてかもしれない。
「中入ろうか」
促され、あたしは喫茶店に向かって歩き出したシュウの後ろをついていった。
