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あたしのご主人様!

第3章 ご主人様とピンクローター 2


「おまえのイヤはいいってことだもんな」


 シュウはそう言って、チケット売り場へと向かう。すたすたと歩いていってしまうシュウを、あたしも追いかけた。

 歩く度に中がこすれて、体がびくびくと震えそうになる。

 立ち止まりそうになるたびにシュウがあたしの肘を引き、引っ張られるように無理やり歩かされた。

 列は長く、数分待ってようやくあたしたちの番になった。

 映画のタイトルを言うと、お姉さんがオススメの席を教えてくれる。それは広いシアタールームの真ん中辺りの席だったけれど、シュウはそれをやんわりと断り、一番後ろの列の真ん中辺りの席を希望した。


「こちらでよろしいんですか?」

「いいよな、愛華」


 本当はもっと上映画面に近い、観やすいところがよかったけれど、立っているだけで精一杯の今のあたしには声に出してそんな抗議をする余裕なんてあるはずもなく。


「……うん」


 うつむき気味に唇を噛んで、それだけ応えるのがやっとだった。

 そのままドームの中へと進む。

 この時のあたしには、シュウがなぜ一番後ろの席を選んだのか、知るよしもなかった。

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