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Memory of Night2

第2章 春


 晃はようやく合点がいった。

 宵が不機嫌な原因は、おそらくバイトのせいだ。

 宵は四月の初め頃から少し特殊なバイトをしていた。それがきっと嫌なのだろう。

 晃はわずかにからかうようなニュアンスで宵に問いかけた。


「――もう二ヶ月になるんだっけ? 君が雑誌モデルなんていうしゃれたバイトを始めてから。文句ばっか言ってる割には、よく続いてるよな」


 くすくすと笑われむっとするものの、自分でも納得してしまっている部分があるので言い返せない。

 そう、宵が新しく始めたバイトというのは雑誌モデルだった。始めたといっても、月に四、五回事務所に呼ばれ撮影を行うだけの本当にバイトのようなもの。

 ――あれは、四月の始業式前日のこと。

 宵はルーズリーフやインクの切れかけたペン類など、足りない文房具を調達しに駅前の文房具屋に足を運んでいた。

 その帰り道、妙な男に声をかけられたのだ。


「ねえ、君、モデル業なんて興味ない?」


 名乗りもせず、挨拶もせず、突然後ろから肩を叩きながら男はそんなことを言ってきた。

 語尾を伸ばしたような軽い口調に、一瞬新手のナンパかと思った。

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