
Memory of Night2
第2章 春
「……は?」
振り返り、宵は思わず相手を睨みつけてしまう。
男はにっこりといかにも営業スマイルといわんばかりの顔で微笑んでみせた。
男の服装は黒いスーツに黒い革靴。年は三十代後半くらいだろうか。
ワックスで固めた茶色い髪。長めの前髪だけはおろしていた。黒いフレームの眼鏡を着用し、ガラスの向こうには散臭い笑み。
着崩したスーツのせいか軽い口調のせいか、まるで遊び人のように見える。
「誰……ですか?」
怪しさ全開の目の前の人物に、宵が不審げな顔で問いかける。
「おっと、これは失礼。僕はこういうものです。どうぞ」
男は大げさな仕草でしまったというポーズを取ってから、胸ポケットに手を入れ名刺を取り出した。宵に差し出す。
受け取って眺めてみると、そこには『白鳥(しらとり)芸能プロダクション 深津直也(ふかつなおや)』と書かれていた。
「芸能プロダクション?」
「ええ、うちは主に雑誌モデルを……」
「結構です。興味ないんで」
宵は早々に男の言葉を遮り、名刺を男の腹辺りに突き返した。
そのまま背を向け歩き出そうとすると、今度は別の声が響く。
