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Memory of Night2

第2章 春


「あら、どうして? あなた、華やかな世界に少しも興味は湧かない?」


 酷く湿り気のある声だった。鼓膜に直接響いてくるような、脳を揺さぶるようなどこか官能的に響く女の声。

 突然介入してきたその声に驚き、宵が振り返る。

 深津と名乗った男の後方に停まっている赤いスポーツカーの横に、女は立っていた。

 宵が振り向いた瞬間ばっちり視線がぶつかってしまったので、おそらく先ほど自分に向けて声を放ってきた人物に間違いないだろう。

 赤いシャツにデニム生地のショートパンツ。足にはヒールの高いサンダルを履いている。

 ほっそりとした太ももから足首まで派手に露出している、なんとも大胆な服装の女だった。

 赤茶色の髪は後ろの高い位置で結わえてあり、解けばおそらく胸辺りまで伸びているだろう。目には黒いサングラス。熟れすぎたリンゴのように真っ赤な唇は、まるで毒を孕んでいるかのように艶めかしい。その口元は綺麗な笑みの形に歪められていた。

 女は運転席から下りた直後らしく、ドアをきびきびとした動作で閉めると、サンダルの音を警戒に鳴らし、男の横をすりぬけて宵の目前まで歩を進めてきた。

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