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Memory of Night2

第2章 春


 語尾をやたらとあげて、軽い調子で直也と名乗った男は言う。

 そうして宵の顔を覗き込んできた。

 宵は返事に詰まり、一瞬たじろぐ。


「……!?」


 だが、次の瞬間直也はがばっと宵に抱きついてきたのだ。

 唐突な行動に反応する暇もないまま、直也の手は今度は尻へと伸びる。

 多少非常識でも一応目上の人間だからと思い我慢していたけれど、さすがに限界だった。


「何すんだよっ」


 反射的に、宵は押し殺した声でそう叫び、直也の足を思い切り踏みつけてしまっていた。


「いってぇ!」


 直也はしゃがみこみ、踏まれた左足を両手で押さえて身悶える。


(やべ……)


 つい足を出してしまったことを一瞬後悔したが、どう考えても男が悪い。

 これではセクハラだと思う。

 謝るのは癪な気がした。

 うずくまったままの男を一瞥したが、宵はそのまま踵を返して早足にその場を後にした。

 去り際に、黒い目で自分を見つめる春加と名乗った女の姿が視界に入る。

 春加の視線がどこか威圧的に思えるのは、濃すぎる化粧のせいだろうか。

 何故だか酷く気になった。

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