テキストサイズ

Memory of Night2

第2章 春


 本当だったらこの話はそれで終わり、馬鹿げた笑い話として片付けられるような、その程度のもののはずだったのに、問題は帰ってからだった。

 ズボンの後ろのポケットに入れておいたはずの携帯がなくなっていたのだ。

 最初は落としたのかと思ったが、携帯を入れてあったはずのポケットに身代わりのように入っていた紙切れを見つけ、一気に疑問が晴れた。

 白いメモ用紙には、ペンで書きなぐったような汚い文字で白鳥芸能プロダクションの住所と簡単な地図が書かれていた。


「これって……」


 宵は目を見開く。

 思い返してみれば、あの怪しげな男が宵に抱きついた時に触れた場所は、携帯を入れておいたポケットだった。

 そこにこんな紙切れが入っていたということは、ほぼ間違いなく携帯を盗んだのはあの男だろう。

 もしかしたら、隣の女も共犯なのかもしれない。


(信じらんねー)


 そこまでして、自分を事務所に呼び出したかったのかと思う。

 もう関わることもないと思っていたのに、盗まれた携帯を放っておくわけにも行かず、宵はそのままメモに書かれた住所を頼りに白鳥芸能プロダクションに向かったのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ