
Memory of Night2
第2章 春
志穂と弘行が結婚してからは経済面で困ることはなくなった。弘行はまだ三十代だが、優秀な医師であり安定した収入もあるからだ。
戸籍の上では宵は弘行の子供にもなるわけで、養ってもらう権利はあるはずだった。現に、今現在の養育費やら何やらはすべて弘行が出している。
弘行もそれを嫌がりはしないし、むしろ快く承諾してくれているように見える。本当の父親だと思って甘えてくれていいとまで言ってくれるのだ。
(でもな……、そういうわけにも)
その言葉や気持ちは嬉しかったが、もとは他人だった人だ。志穂の主治医として長年世話になってはいたが、血の繋がりがあるわけでもない。
何から何まで世話になって甘えたおすことはできないし、宵にも遠慮があった。
ここのアパートは本当は志穂が借りていたもので、弘行と結婚してからは弘行の家に越していった。
宵も一緒においでと言われていたが、新婚の邪魔をするのも気が引けて、結局それを断り宵のわがままでここに残って一人暮らしをさせてもらっている。
せめて家賃くらいは自分で払いたいと思ったのがモデルというバイトを引き受けた一番の理由だった。
