
Memory of Night2
第3章 名前
「遅れましたー」
「……おまえなぁ。もう授業終わるぞ?」
遅刻した宵を出迎えたのは、体育教師の一人である柳沢(やなぎさわ)だった。
三十代後半の男だ。
「ん? つか、体調不良だったんだよな? 大丈夫か?」
「あー……平気です」
そういえば、午前中休む理由をそう伝えておいたのだと思い出す。
南風高校は比較的に校則が緩い。バイト自体は禁止されていないが、もちろん、授業を休んでまでそちらを優先するのはご法度だ。
宵はすぐに言い訳を探した。
「朝少し気分が悪くて。でももう治りました」
「まあ、大したことなくて良かったが。……にしたって時間が中途半端すぎだ。病み上がりだし、後で補習してやるから今日の体育は休め」
「えーっ」
補習という単語に、宵は非難じみた声をあげる。
「今日の体育に出られなかった者は補習。そういう約束だっただろ?」
柳沢は腕を組み、ため息混じりにそう告げる。
「だから、出るっつってんじゃん。テストも受けるし」
補習なんて冗談じゃない。だいたい、体育に遅刻したのはあの女の気まぐれのせいだ。
