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Memory of Night2

第3章 名前


「あーでも、もうすぐ時間だよー?」


 女子の一人が時計を確認しながら言う。

 試合終了まで、残り一分を切っていた。

 現時点では、宵が八点、晃が十点。

 通常のゴールは一回二点なので、宵が晃に勝つためには、二回シュートを決めなければならなかった。

 時間的にかなり厳しい。

 宵はボールを籠に突っ込むべく走るが、がっちりと隣でガードする晃に阻まれ、なかなかゴールに近づけない。

 不意に、横を走っていた晃の体が前へと踊り出た。そのまま、晃が素早く右腕を宵とボールの隙間に差し入れる。

 宵はとっさに立ち止まり、ついていたボールを持ってしまった。


「あーあ。これでそこから動けないね」

「クソッ」


 ボールを奪おうと伸びてくる晃の手を体を捻って交わしながら、絞り出すように言った。

 宵の肩は激しく上下し、息も弾んでいる。それに比べて晃はまだ心なしか余裕があるように見える。


「もう時間ないし、諦めて二十周走ったら?」


 挑発するように言う。

 宵は身をかがめ姿勢を低くした体勢のまま、晃を睨みつけた。

 その唇が、わずかに綻ぶ。

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