
Memory of Night2
第3章 名前
言うやいなや踵を返し、はすみはそこからまた走り出した。
去り際に、学生鞄を膝にぶつけて「痛っ」と声をあげながら。
嵐のような女だった。
宵と晃はしばらく唖然と少女の後ろ姿を見送っていた。
やがて晃がぽつりとつぶやく。
「敬語キャラでドジっ子とは。なかなか萌えのツボを押さえた子だね?」
「……第一声がそれか? さすが、真性の女好きだな」
宵からのイヤミは軽くスルー。晃は苦笑した。
表通りを歩き出しながら、宵に問いかける。
「今の子は? 聞いた感じ幼なじみっぽかったけど」
「そんな感じ。俺が小二ん時まで近くに住んでた子だよ。確か俺の一個下」
「仲良かったの?」
「幼稚園も小学校も一緒だったから悪くはなかったけど、どっちかっつーと俺の母親の方がはすみを気に入っててさ。しょっちゅう家に遊び来てたんだよ」
母親。その単語に、晃の脳裏に即座に浮かんだのは宵の義理の母親である志穂だった。
けれども確か、宵の両親が交通事故で亡くなり、志穂に引き取られたのは宵が小学校四年生の時だ。
ということは。
「――宵の本当のお母さん?」
