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Memory of Night2

第4章 同居


 肌寒さを感じ、そっと両腕を抱いた時だった。


「……悲しいね」


 ふいに聞こえたつぶやきに、声の主を振り向いた。


「まだあの女に囚われたまま、忘れることができないなんて」


 瞳を細めた。

 湧き上がる苛立ちを隠そうともせず、睨みつける。


「そんな写真一枚、捨てることもできないなんて……ね」


 嘲笑。

 部屋のドアにもたれかかったまま、くつくつと含み笑いを洩らす人影を、さらにきつく睨みつけた。


「余計なお世話だっ。あんたに関係ない」


 ぴしゃりとはねつけて、視線を逸らす。


 乱暴に写真をもとあった引き出しの中へと閉まった。木製の枠がつよくぶつかり合う音が、静寂の中に響き渡る。

 月が美しい夜。白々しいほど重たい沈黙が、二人の間に落ちる。


「可哀想な人」


 向けられるのは憐憫、同情。昔からそうだった。

 それ以上のものをくれたことなど一度もありはしなかった。

 傷を舐め合うことしか、教えてくれない。


――ねえ、私、子供ができたの――


 燃え広がった憎悪を煽るように、今は亡き女の声が脳裏に反響した。

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