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Memory of Night2

第4章 同居


「――い、宵」

「……?」


 助手席に座ったまま、ほんのつかの間うとうととまどろみそうになっていた宵は、耳元で響く女の声と右腕を揺すられる感覚で瞼を開けた。


「着いた」


 その一言で、窓の外へと視線を向ける。

 そこには三階建ての、カフェテラスのような見慣れた白い家がある。 

 晃の実家だ。


「ほんとだ」


 宵は軽く伸びをして、シートベルトを外した。

 それから隣の運転席に座る春加を振り向くと、アイラインを塗りたぐったような黒縁の瞳と目が合った。


「ありがと。晃んちまで送ってくれて」

「まったく。ガソリン代が余計にかかる」

「……事務所からなら、俺んちより晃んちの方が近いんじゃね? つかアンタいつも無駄に車走らせてんじゃん。服やら小物やら買いに」


 事務所に行く際、送り迎えをしてくれるのはいつも春加だ。

 けれども春加はマイペースで、自分の行きたい店があると宵を下ろさず連れていってしまうことがごくたまにある。この間の体育に遅刻した日のように。

 そこを指摘すると、春加はわずかに瞳を細めた。

 言葉はなくとも、その鋭い眼光は宵に「さっさと車を下りろ」と煽っているように見える。

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