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愛に飢えた遊女は...

第1章 吉原

「桃花」

静かに私の名前を呼んだのは

氷上 尚人。


「なに?」


サラッと少し茶色かかった長い髪が肩に落ちていく。

「こっちきて…抱きしめたい」


大きな黒い瞳が尚人の瞳と重なると

尚人の傍に引き寄せられるように私の体は動く。





痛い…

傍に行くとすぐに体格の良い尚人の太くて筋肉質な腕に力強く抱きしめられた私は、少し体が痛んだ。


「俺…怖い。自分が、自分が怖い…」


尚人は震えながら
そう呟いて私の首筋に顔を埋める。





「………大丈夫だよ、尚人」


尚人には、私がいるから。


私は短髪で柔らかいアッシュグレーの尚人の後ろ髪に手をまわし優しく撫でた。


「桃花…」

「んっ…」


尚人は私を押し倒し唇を奪い取ると激しく行為を進めていく。






氷上組と言ったら裏社会の名の通ったヤクザの一つ。
尚人はそのもの三代目。


鋭い瞳に甘いマスクで、遊女たちからも人気もある。

何人もの部下を従えていつも仕事してるらしい。


『冷血な人』
人は尚人のことをそう言って恐れているけれど、
私の知ってる尚人はその逆。




「桃花…」
「…っ…なぁにぁ…あっ」


「な?気持ちいい?」


「はぁあっん、あっだめぇ…んゃぁぁ」

不規則に波打つ律動と快感に
ぼやける視界の最中、少し怯えた表情で

「なぁ…桃花ぁ…っ?」


それでも色気をはなっている尚人の問いかけに



こくりと頷いた。


尚人は可哀想な人。
本当は凄く臆病で弱い人なのに
三代目と言う肩書きがあるために昔から強い自分を演じ続け、

本当は凄く優しい人なのに、何人もの人を傷つけてきた。

そんな自分が嫌で、自分が自分でなくなってしまいそうで

ずっと怯え続けてる。


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