触って、七瀬。ー青い冬ー
第1章 七瀬夕紀の感傷
「ゆうき君、あーそーぼ」
「いーよ」
隣の家の女の子は、僕と仲良しだった。
僕達は小さい頃からずっと一緒で、
その子の名前はサキちゃんと言った。
ほかの子供達は男の子同士、女の子同士で、男の子なら外遊び、女の子ならおままごと、なんていう、知らないうちにできていた常識みたいなものに従っていた。
それが彼らにとっては自然だったのだろう。
でも僕達はいつも二人一緒だった。
外遊びもすれば、おままごともすれば、
何もしないで散歩もした。
それが許されていたのは小学生低学年までだった。
5年生になった時、僕は突然一人になった。
「ごめん、もういっしょに遊べないんだ」
帰り道、いつものように二人で帰っていた。他にも、それぞれ友人はいたけど、帰り道は二人と決まっていた。それはこれからも同じだと思っていた。
そんな時、サキちゃんは僕から離れることを僕に告げた。
「え、何で」
僕は驚いた。
こんな風に言葉によって、二人が離れることがあるなんて。
「私ね、ほかの女の子達と仲良くしたいなって思ったの。ゆうき君だってそうでしょ?男の子達と遊びに出かけたいでしょ」
「…うん」
僕は嘘をついた。
「それに、ゆうき君と一緒にいると、噂されちゃうから」
「噂って何?」
サキちゃんは黙っていた。
少し恥ずかしそうに俯いていた。
「その、私達が付き合ってるって」
「付き合うってどういうこと?」
「わかんないけど…」
サキちゃんは困っているようだった。
「ゆうき君は、私のことどう思ってるの?」
サキちゃんはその時、もしかすると勇気を振り絞ったのかもしれない。
僕はそれに気づかなかった。
気づくはずもなかった。
「サキちゃんのこと?」
サキちゃんを見ると、一瞬目があって、サキちゃんは目を逸らした。
変だな、と思った。
「もちろん、親友だよ」
僕は笑顔で言った。それは本心だった。
「…友達ってこと?」
でも、サキちゃんは嬉しそうではなかった。
「もちろん」
サキちゃんを安心させようとしていた。
どんな変な噂が立とうと、僕達の関係は変わることはないと。
「私のこと好きじゃないの?」
サキちゃんは涙ぐんでいた。
どうしよう。まだ不安なのだろうか。