触って、七瀬。ー青い冬ー
第1章 七瀬夕紀の感傷
「何で?好きだから友達なんだよ」
サキちゃんは涙を流した。
「ゆうき君、私も好きだよ」
サキちゃんはどんな気持ちで僕の隣にいたのだろう。
「ありがとう」
僕はそう言ったけど、サキちゃんは僕を見なかった。
「じゃあね」
まだ帰り道の途中なのに、サキちゃんは走って行ってしまった。僕も追いかけようとして、信号に捕まってしまった。
僕は一体何をしたのだろう、
なんでサキちゃんは泣いていたのだろう、
なんで僕から逃げて行ってしまったのだろう。
悲しみよりも、不思議でならなかった。
そして、それよりも辛かったのは、それからのことだった。
小学生のうちは良かった。
幼馴染が多くて、男友達も女友達もある程度僕と遊んでくれていたし、サキちゃんが僕を避けていてもあまり気にならなくなった。
しかし、中学生になると、環境は全く変わってしまった。
「七瀬 夕紀です、よろしくお願いします」
最初は何も問題はなかった。
ふつうにクラスに馴染めていた、と思う。
でもだんだんと、僕はここには馴染めないのだと気付いた。
「真希ちゃんと健太が付き合ってるんだって」
どこにでもあるような噂と、幼い恋愛ごっこが少し変わってくる年頃の男女の交流。
男子は性欲がさらに強く、女子は体つきが少しずつ丸みを帯びていく。
僕はなんだか気持ちが悪いと思った。
本気でもないのに好きだとか付き合うだとか、どうせ別れるのに。
それに誰が誰を好きだとか噂しあって、
それで何が面白いのだろう。
僕には理解ができなかった。
好きな人もできなかった。
そんな中特に気持ちが悪いと思ったのが、男子特有のエロい話だ。
まだ覚えたての快感とか、初めて知る興奮とか、そんな有り余ったエネルギーがわかりやすく会話に現れる。
僕は耳を塞いでいた。
汚い、気持ち悪い。
そんな感覚のズレからか、
僕には男友達も女友達もできなかった。
ずっと一人だった。
それでも、嫌悪感を隠すことはできなかった。我慢してみんなに合わせるよりは、一人でいた方が楽だと思った。
そうして一人でいるうちに、僕は孤立していった。
無口になったし、笑わなくなったし、
本ばかり読むし、勉強しかすることがないし。
それで先生には褒められたし、寂しいと感じても、友達を作る気にはならなかった。
それでもいいかと思った。