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触って、七瀬。ー青い冬ー

第7章 二人の記憶


「…なんかすっごいゴロゴロする。
目痛い!」

「慣れだ慣れ」

高梨が地下3階のボタンを押した。

「こんな派手な服、変じゃない?」

「派手じゃないと逆に浮くから。
心配すんな」

「どんなとこ行くんだよ」


「こんなとこ」

エレベーターの扉が開いた。


「お待ちしておりました…て、伊織?
めっちゃ久しぶり!元気してた?」

明るくてチャラいバーテン服の人が、伊織の肩を叩いた。30歳くらいだろうか?

「お久しぶりです、堺さん」

「おお。今日満席でステージの依頼もじゃんじゃん入るんからさー、頑張ってよ」

「はい、頑張ります。あとこいつも」

高梨が僕を前に押し出した。

「ちょ、高梨」

「お、何、弟子?
いいね〜、かわいいじゃん」

堺さんが僕の背中をばんばんと叩いた。むせるくらい強い。

「この人これでも偉い人だから」

高梨がそう言うと、堺さんが名刺を出した。

「一応、店長の堺です」

一応、を強調して渡された名刺は黒い高級そうな手触り。

「ど、どうも」

「じゃ、いってらっしゃい」

堺さんが扉を開けると、中は嘘みたいな世界だった。

キラキラしたシャンデリア、背もたれが仕切りがわりの大きな丸いソファーに男女が並んで座っていて、その間をイケメンのお兄さん達が忙しく歩き回っている。


「ステージはあっち」

高梨が僕の背を押して歩かせる。

「高梨、まさか僕にピアノ弾かせる気?」

「お前気づいてないみたいだけど、ピアノの才能あるし」

ステージは1メートルくらいホールより高くなっていて、それぞれのテーブルから見上げられるようになっている。

「俺も一緒に上がるから」

高梨が僕を、心の準備もさせないでステージに上がらせた。

紫のスポットライトが僕達を照らした。

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