触って、七瀬。ー青い冬ー
第7章 二人の記憶
僕に向かって歩いてくる姿が、別人みたいに見えた。
学校では見えない、夜の顔。
なんだかとても恥ずかしかった。
高梨は大人で、僕はまだ何も知らない子供だった。
高梨は僕のブレザーの襟に指をかけた。
「僕は子供なのかな」
高梨がそんなつもりはなくても、僕はとても緊張した。その手があまりに綺麗で上品に動くから。
「子供はそんな事考えない」
高梨は僕のブレザーを脱がせると、僕に白のジャケットを見せた。
「高梨、どこ行くの」
「うん、やっぱ似合うな」
高梨はその派手な白ジャケットを僕に着せた。
「パンツは黒?白?」
「どこ行くのって」
「黒の方が無難だけど、
…やっぱお前は白」
高梨が僕にそのパンツを押し付けた。
「…」
僕はそれを着ようとしたが、高梨がこっちを見たままだ。
「…ちょっと後ろ向いてて」
「あ、ごめん」
高梨が慌てて後ろを向いた。
高梨は気づいてる?
僕は普通じゃないと思ってるかな。
「高梨、僕って変?」
僕が先生としたことで、僕がゲイだと思ったかな。
「変って…、お前はお前。
さっきも言っただろ」
高梨は何気なく言うけど、…本気なのかわからないけど。そう言ってくれるだけで安心した。
「うん」
高梨は振り返った。
「お前、本当にお坊ちゃんって感じ」
「高梨が着せたんだろ!」
なんか、まんまと騙された気分。
「褒めてんだよ」
高梨が僕の頬に手を伸ばした。
僕は驚いて息が止まった。
高梨は僕の眼鏡を取った。
「こっちの方が良い」
「でもなんも見えない」
「コンタクトしろ」
……