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触って、七瀬。ー青い冬ー

第8章 初夜の残像



高梨が僕のうなじに手をかけた。

「んっ…」



高梨が僕を引き寄せ、そのままキスをした。


僕はこれが夢だと思った。

それにはちゃんとした理由がある。

まず、こんな夢を一度だけ見たことがあるから。

相手は高梨じゃない、誰か。
運命の、誰か。

その夢の中でキスをした時、気持ちがよくて、幸せで、涙が出た。

ああ、好きな人とキスするってだけで、こんなに幸せになれるんだって。

それがわかったから僕はとても安心したのを覚えてる。

運命の相手がまだ現れないだけ。

きっと、僕は可愛い女の子に出会う。
そして、皆みたいに、普通の恋をして、
こうしてキスをして、幸せになるんだなって。


でも、中々現れなくて、キスなんてすることもなくて、僕には恋愛感情がないんだ、
僕はおかしいんだって思った。


「ん…ん」


高梨が僕の首に腕をかけて、引き寄せる。

気持ちよかった。

香田や先生とのキスとはまるで違う。

甘くて、とろけるキャラメルのような味。

身体中が幸せで満たされる味。

キスは酸っぱいなんて、誰かが言ってた。

でも、僕と高梨のキスはどこまでも甘かった。

甘くて、甘くて、涙が出る。


高梨が唇を離した。

唇が熱かった。

この、綺麗な唇と、僕はキスをしたんだ。

いや、これは夢だ…


高梨は徐ろに立ち上がって、僕の腕を引いた。

長い廊下の一部屋の中、中心に置いてある大きいベッドに、僕は投げ出された。

その部屋は赤い色。
挑発するような燃える色。


「高梨、酔ってるよね」

僕はなんだか、現実のような気がしてきた。

「ああ、酔ってるよ」


高梨はジャケットを脱ぎ捨て、シャツの袖をまくった。

ベッドに上がった高梨は、僕のジャケットを脱がせ、両手首を持ち上げた。

「ちょっと、高梨」

高梨は僕のネクタイを取り、
僕の手首は、そのネクタイで縛られた。

「痛いよ」

「それはよかった」

高梨は意地悪く笑った。
そして、そのネクタイの先をベッドのポールに繋いだ。

手を抜こうとしても抜けない。
ギリ、とネクタイが食い込むだけ。

僕は急に恐怖を覚えた。
何があっても動けない、逃げられないという恐怖。

「怖い?」

高梨が僕の頬を撫でた。

僕はうなづいた。

「すぐに忘れる」

高梨はそう呟いた。


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